月より星より キミに誓うよ

   “秋と月夜と それから…あのね?”


ああまで暑い東京だったのが、
八月の末頃から急にすとんと涼しくなってしまい、
あまりの急変に面食らった人も多かったろう。
そのまま雨催いな天気へなだれ込んだこともあって、
カレンダーの上での秋の始まりは、
随分と秋めいた涼しさの中、幕を切って落とした感があり、

 「あ、母さんたら、次のTシャツ送ってくれてたんだね♪」
 「ううう、うん。」

押し入れダンスの中が
さりげなく入れ替えられていたのに気づいたイエス様。
とりあえずはと半袖のTシャツへ着替えてから、
どんなのがあるのか確かめたかったか、
やや乱暴ながら目新しいのを掴み出し始めてしまい。
そのまま六畳間に広げられたのは、真新しいTシャツが幾枚も。
最聖のお二人が地上での普段着にしている
カタカナや時には英語のロゴ入りTシャツは、
ご当地Tシャツをついつい買い溜めるマリア様が、
新品同様なまま ごそりとイエスへ送って来て下さるものの流用で。
此処では立派に異人さんな二人なので、
それがカタカナのロゴを躍らせているTシャツをまとっている様は、
何だか可愛いと映るらしくて、誰の前でもウケはいい。
ただ、

 “やっぱり気づいてないみたいだな。/////////”

今や大胆にも半分近くが、
すぐお隣におわすブッダ様の手による
スクリーントーンプリントをされたTシャツだというに。
今回も、イエスがアルバイトで家を空けていた内に刷ったものが
やはり何枚も混ざっていたりするのだが、
やっぱり全くの全然気づいていないらしいのが、
安堵すると同時、
何とも無邪気で可愛いなぁという感慨を如来様へも運んで止まずで。

 「あ、これ可愛いvv」
 「そそそ、そう?////////」
 「うん♪
  ほら、ロゴの字体が なんか可愛いし。
  あ、こっちのは二重に重なってるのの
  片方へだけ絶妙な色変えがしてあって可愛いvv」

可愛い可愛いという方向でのウケばかりなのが やや気になるが、
気に入ってくれたのなら、そこはやはり嬉しい。
散らかしてもうと怒るでなく、
そうかと言って イエスの反応へ特に口を挟むでなく。
いっそ彼からの評価をとくと聞くよにして見守っておれば、

 「あ、これとこれって さりげなくペアになってない?」
 「え?///////」

秋物という感の強い、長袖の新しいの、
卓袱台を脇へと退けて作った空間へ 幾枚も広げたその中から。
ロゴにと選ばれた文言こそ別ながら、
ちょっぴり凝った字体が同じトーンのデザインなら、
使われている色に
途中からグラディエーションが掛かっているところも、
デザイン的に同じなんじゃないかという2枚が見つかって。
紫がかった淡い緋色から青い緑に落ち着くのと、
オレンジがかった黄色から朱色へ落ち着くのとと、
色味はずんと違うものの、その変調の具合が同じなので、
広げて隣り合わせに並べると、
違っていつつも“ああお揃いなんだ”と思わせる、
絶妙な色使いなところが いっそお洒落であり、

 「うわぁ♪ 何か綺麗だねぇ、これvv」

イエス様には特にお気に召したらしく、
肩のところを両手で持ち上げて掲げると
わあvvと子供のように はしゃいだ挙句、

 「これは二人で同時一緒に着ないとねvv」

せっかくの意匠が勿体ないなんて言い出す始末。
ええまあ、お揃いというか そこはさりげなくですが、
対になるようにと考えて刷りましたよと、
内心で認めるブッダでもあり。
ただ、こうまではしゃいでもらえようとは思わなんだか、

 「……あ、ああうん、そそそ、そうだね。////////」

え〜?なんて言って一応は拒否してみる方が
真相に辿り着きにくいんじゃないか…というような。
なにか周到そうなことを考える余裕もないまま
それはいい考えだねと、素直に頷いてしまっていたりする辺り。
こちらも人のことは言えない、
何とも純朴な含羞みに飲まれてしまわれた
釈迦牟尼様だったそうですが。(苦笑)




     ◇◇



その境目こそ、いきなりすとんと涼しくなったけれど、

 「いやいや アタシは騙されないよ」 と

管理人の松田さんが いかにも重要なことのよに、
慎重そうなお顔で何度も首を振って見せての仰有るには、
このまますんなりと涼しく秋めくとは思わない方がいいそうで。

 「そうと思わせといて、半袖を片付けたら、
  まだ昼の間は汗ばむ陽気がすぐにも戻ってくるもんだよ。」

 「ははあ…。」

ああそういえば、昨年も結構長いこと半袖を出してなかったか。

 「あと、蚊の用心もね。
  涼しくなると言っても
  それは むしろ彼奴らにも過ごしやすくなるだけってもんで。」

考えてもごらん、
あいつらってのは朝晩の涼しいときこそ出て来ないかい?
お偉い先生が言うには 暗いところこそ好きだという話だし、
草むらや水際に多いってのは
何もボウフラがそこで育つからってだけじゃないらしいよと、
なかなか専門的なことまでお教えくださり、

 「あんたら、まだ慣れてないのか
  それとも宗教的な禁忌ででもあるのか、
  相変わらず、時々 あちこち蚊に食われてるだろうが。」

そんな彼らなのへと、
これでも気を遣ってのそんな助言まで下さったようであり。

 「あ、や、あのその…。////////」
 「あははは、そ、そうですか。まだ用心が要るんだァ。」

乾いた笑い方をしたその陰で、
ちょこっとドキドキしちゃった最聖のお二人だったのは、
それこそ ここだけの話ですけれど。(笑)
だって、本当に蚊に刺されたところもあるにはあるけれど、

 「私を刺した蚊が徘徊しておれば、
  ここのご近所でも多少は妙な話が聞かれようし。」

 「…自覚はあるんだね。」

デング熱ほど厄介ではないものの、(こらこら)
それでも微妙に難があるがため、
自分たちへのためというより、周囲へのご迷惑にならぬよう、
実は虫よけ対策もなさっておいでで。
だってのに、蚊に食われたようだがと
松田さんから案じられてしまっていたのは…

 “え〜っと。////////” × 2

  ……まま、皆まで言うまいということで。(苦笑)

それじゃあ出掛けますのでと、
ぎこちなくも頭を下げ下げ そそくさと出向いたは、
毎度お馴染み、商店街までのお買い物。
秋の味覚がボチボチ出つつも長雨の影響もまだ引かずか、
キュウリやナス、レタスといった夏野菜の高値は相変わらずだし、
梨や葡萄なども
まだちょっと実が甘く肥えるまで日が掛かる産地も多いらしくて。

 「魚の方でも まだまだサンマが不漁らしくてね。
  代わりのように、イワシがたんと漁れちゃうらしい。」

イエスには旬のものを食べてもらわねばと、
焼いてあるものを時々買っているブッダなのを覚えていらしたか。
魚屋さんの女将さんが、
高値なのが自分の甲斐性のせいのように眉を下げて仰せで。

 「ああいえいえ そんな。」

もっと秋が深まったら美味しさも増すのでしょうし、
脂が乗るのを楽しみにしておりますよと、
こっちまで腰を低くしてしまう彼なのを、
微笑ましいという顔でイエスが見守っておれば。

 「もうもう。///////」

振り返ったそのまま、
そんなお顔をされていたと素早く気づき、
心外だからか、それとも
“誰への気遣いだと思ってんの”というささやかなご立腹からか。
癪だからだろう微かに膨れもって、
そのくせ ちょみっと頬を赤らめつつ歩み寄って来るブッダ様なのが、
これまた可愛いなぁと やに下がっておいでのヨシュア様だったりし。

 「なに怒ってるの。」
 「知りません。」

自分のことでしょうに 知らないなんてないんじゃない?なんて。
そういう言い回しがますますとむっかりを煽るというに、
複雑繊細なヲトメ心に微妙に疎い、
こういうところだけ イマドキの男の子なイエス様。
じゃれつき半分なお声を掛ければ、
案の定、知らん顔してさっさか歩みを進めてしまう如来様であり。

 “ありゃ、本当に怒らせちゃったかな。”

後ろから追う格好になっていればこそ
すっきりとしたうなじや
しゃんとした背中、まろやかな肩の線を見やりつつ。
今頃 迂闊だったかなと気がついて、
これはしたりと 内心にて冷や汗をかき始めておれば。

 「……あ。」

何に気を取られたか、その背中がいきなり立ち止まり、
後に続いていたイエスが、
不意を突かれたそのまま たたらを踏んだ。
追いつこうと速足になりかかっていた間の悪さも重なってのことで、

 「わあ…っ。」

結構 上背のある相方様が 勢い余ってぼそんとぶつかって来ても、
受け止めて さして揺るがないところが何とも頼もしい。
さすがは広い御心で衆生を支える釈迦牟尼様だなぁと、
妙なところで感心しておれば、

 「そっか、今年は八日なんだ。」

お顔を横へと向けたままの彼がそうと呟き、
おんぶお化けになったままのイエスへも、ほらと視線で促したのが、
すぐ目の前の和菓子屋さんの店先、
陳列用ショーウィンドウに貼られた手書きのPOPで。
それはなめらかな達筆の筆書きながら、
万人に読みやすいようにだろう楷書で記してあったのが、

  今年の十五夜は 九月八日です

という一文だったりし。

 「…あ、お月見だ。」
 「そうvv」

涼しくなったと言っても
ほんの数日前まで真夏同然だったのにねと
ブッダが感慨深げに紡げば。
イエスも“うん、早いよねぇ”と、
そのPOP自体が望月ででもあるかのように見ほれつつ呟いて。

 お団子作らなきゃね。
 あ。去年のvv

ブッダが手作りしてくれたのを、
そんな一言で ぱあっと思い出せたらしいヨシュア様。
期待一杯というはしゃいだ声になったのへ、
今度はブッダの側が、面映ゆげなお顔になったりしで。
ちょっぴり齟齬が生じかけていたのもどこへやら、
にっこり笑顔を見合わせて、
それは仲良く帰途についたお二人だったりしたそうな。







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  *全くの全然 関係ないのですが、
   実写版の『ルパン3世』の“次元”役の人、
   顎だけじゃあなく口髭まであるもんだから、
   ワイドショーなんかでインタビューされてると
   こっちまで妙に落ち着きがなくなります。

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